周囲に漂う汚い公衆トイレのような悪臭が鼻を突く。
電池の弱ったライトが木々を不気味に照し出す。
そんな闇に沈んだ林は夏にも係わらず虫の鳴声がしない。
「薄気味悪い…」
こんな山中では携帯の電波は入らない。
いや、関係ないか。さっき無くしたんだった。
「………」
背中を伝う汗は暑さによるものだろうか?
自分の足音にびびりながらもゆっくり奥へと足を進める。
一歩…二歩…三歩……四歩……五、六歩。
「…え」
聞き間違えたか。
不安になると幻聴が聞こえるものだしな。きっと林で反射した音だ。
ライトを握る手に力を込め振り返らずに進む。
もう少しのはず。早く着いてくれ。
無駄に響く鼻歌を口ずさみ、ずかずかと早足で進む。
だが、
それでも『それ』は聞こえてしまった。