加菜に会い、亮ちゃんと話しをしたその日の午後は、連日続いた暑さも何となく感じさせないくらいに過ごしやすかった。
夕方になるに連れて涼しさも増して行く。
夏はあまり好きじゃなく苦手だったな、とふと思い出していた。
ピンポーン――――。
軽快にインターフォンの音が、今までよりも広く感じる部屋に響いた。
来訪者はすぐに誰だかわかっていた。
私は特に確認もせずに玄関のドアを開けた。
そこには、あきがスーツ姿のまま優しく笑って立っていた。
「唯の家にくるのは初めてだね。」
あきの言葉にただ私は笑顔で頷いて返事にした。
「お邪魔します。」
あきが靴を脱ぐ瞬間、また懐かしくて愛しい気持ちを甦らせる香りがフワリとした。
「今、お茶いれるね。
アイスティーで構わない?」
私が聞くと、あきはあぁ、と返事をした。
テーブルにアイスティーの入ったグラスを並べると、グラスの中の氷がカランと音を鳴らした。
「家に呼んでくれたって事は旦那さんと別れたの?」
あきは白い色の天井を見上げながら言った。
「……うん。」
あきとは逆に私はテーブルの上のグラスを見下ろしながら言った。
「加菜と別れたんだ。」
「うん、知ってる。」
二人とも、さっきと同じ姿勢のままだった。
「唯。」
あきに名前を呼ばれて顔を上げると、天井を見るのを止めてあきも私を見ていた。
「唯と、これから改めてずっと一緒にいれるんだな。」
そう言ってあきはニコッと笑った。
まるで、子供の様に。
本当に幸せそうに。