俺は茨城県にあるカメラ製造某大手会社の工場に勤めている。勤務7年目、役職には就いてないが、職場じゃまあそれなりの位置だ。
「さとる〜、お前そろそろ身ィ固めろや〜!」
顔を合わせる度に必ずこのセリフ。俺が兄貴としたう同僚の先輩竹下さん。
「んなこと言っても相手も居ねぇのに。無理ですわ!」
「居ねぇんじゃねぇんだよ、つかまえんだよ!」
(そんなに簡単につかまるぐらいなら、とっくにつかまえてるよ、当てがないのよ当てが!)
っていうのが俺の心情。
仕事が終り家路に着く。
「明日、明後日休みだけど、どうすっかな?」
刺激のない日々に飽き飽きしていた。
次の日、今日は俺の大好きなアーティスト、『浜口アスミ』の新譜発売日だということを思い出した。
浜口アスミ、29歳。世間では歌姫と呼ばれる大物歌手だ。
俺は早速タワーレコードへ。
「あっ、ありました!やっぱ、ファンなら初回限定版を手に入れなきゃね!」
意気揚々と単車で帰宅。すると信号待ちをしている途中、何やら揉めている3、4人の人影が。
「すみません。人違いです!」
「絶対アスミちゃんだよ!ちょっと飲みにつきあってよ!」
「いいじゃんかよ。今日オフだろ!」
(おいおい、まだ夕方5時だぜ。もう酔ってんのかよ。)
「早く行こうぜ、アスミちゃん!」
(こんなとこにアスミちゃんがいるわけねぇだろ。)
内心呟く。
俺が揉め事を見ているのに気付いたのか、突然彼女がこっちへ向かって走り寄って来た。
「助けてください!」
目の前に来た彼女は紛れもなく『浜口アスミ』。
案の定、絡んでた奴等が言い寄ってきた。
「俺ら今からアスミちゃんと飲みに行くんだから早く消えろや!」
典型的なチンピラだ。
(俺は揉め事は起こしたくねぇんだよなぁ。)
っていう目で彼女を見ると、テレビでは見たことのない目で俺を見ていた。ここだけの話、怖かった。
(しゃあねぇ、やるか。)