「まぁ、どうぞ…」
「おじゃましま〜す!」
部屋へあがると、彼女はぐるりと回りを見渡し、壁に貼ってあるポスターに目を止めた。
「あっ、オレのファンなんだ」
「えぇ、一応…。」
「一応っ!!?」
(やばっ!怒らせた!)
「いえ!大ファンです!」
「よろしい!でさっ、喉が沸いたから何かちょうだいよ。」
と、勝手に冷蔵庫を開け始めた。
「このカクテルいい?」
「ど、どうぞ…」
彼女はジャケットを脱ぎ、カクテル片手にベッドへ座った。
「そこそこキレイな部屋だね、男のわりには。」
「恐縮です…」
俺はいつの間にか正座して床に座っていた。
「あのさ、浜口さん、今、渡米中じゃなかったっけ?」
「ん?」
カクテルを飲みながら横目で応えた。
「誰にも知られないように長い休暇が取りたかったんだ。」
「誰にも知られないように?」
「うん…。オレ、10年間自分のやりたいことに向かってずっと走り続けて来た。私生活を顧みずにさ。」
(20代が楽しい盛りなのに。大変だったんだな…。)
「だから、芸能界から離れて、いろいろゆっくりと考えてみようと思ってね。」
(なるほど、人気歌手には人気歌手なりの悩みがあるんだ。)
「それで何で茨城なの?」
「オレ、プロフィールは東京だけど、出身は茨城県、しかもお前と同じ町だぜ。」
「え!ホントにっ!」
(…って待てよ。俺のこと何で知ってる!?)