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『木下 奈央の母でございます。娘がいつもお世話になっております。』
母は30分もしない内に、あたし達が待つ職員室へ現れたー。
母は車の免許を持っていないー。
自転車にも乗れない‥
って言うか、
小樽は坂の街と呼ばれる程に坂の多い街だからー。
自転車に乗ってる人ってあまり見かけないんだー。
母は多分、勤務先の弁当屋からタクシーでここまで来たのだろうー。
『えー‥。実はお母様に来て頂いたのはですねー。』
待ってましたと言わんばかりに渋川は早速、事の経緯を母に話し始めたー。
『人間誰にでも間違いはあります。
ちょっとした心の闇の隙間に忍び込んだ悪の心。
それは誰でも持っています。
やってしまった事実は仕方ありません。ふと、魔がさすと言うのは、どんな人間にも有り得る事ですから。
先程、娘さんにこの事をお話させて頂いたのですが、なかなか納得してくれないものですからー。
お母様の御勤務先へ電話をさせて頂いたのです。』
母は、渋川の顔から一瞬とも目を逸らす事も無く、話の最初から最後までを真剣に聞いていたー。
『‥ですから、お母様の方からも娘さんを説得して頂きたいのです。』
渋川はそう言って、あたしの肩をポンと叩いたー。
ユカがニヤニヤしながらあたしを見ていたー。
悔しい‥。
結局、担任の渋川もあたしをハナっから疑ってんじゃん‥。
あたしを犯人だと決めつけてんじゃん‥。
犯人だと決めつけた上で、強制的に認めさせようとしてんじゃん‥。
なんだよ‥それ‥。
あたしがやってないって言ったって、
誰も信じてくれないなんてー。
おまけに母まで呼び出されちゃって‥。
もうやってらんないよ!!