『渋川先生、まず娘に代わって秋田谷ユカさんに誤りたいと思います。』
母はそう言って、ユカの方へ向き直ったー。
『ユカさん‥。
ユカさんの事は奈央からよく聞いております。いつも奈央と仲良くしてくださってありがとう。
奈央に代わってお礼を言います。
今、渋川先生から昨日、ユカさんのお財布が無くなったと言うお話を伺いました。何でも、奈央がユカさんの胸ぐらを掴んで、暴言を吐いたそうですね。』
母はそう言って、あたしの方を見たー。
『奈央。人様のお嬢さんの胸ぐらを掴んだなんて、理由はともかくとして、度が過ぎたわね。
あなたの方から手を出したのだから、
その事についてユカさんに謝りなさい。』
母の目は、真っ直ぐあたしを見ていたー。
確かに、母の言っている事に間違いは無かったー。
でも昨日、ユカにあそこまで言われて黙ってられる程、
あたしはまだ大人になりきれていなかったからー。
『ユカ、胸ぐら掴んで悪かったね‥。
ごめん‥。』
あたしは凄くぶっきらぼうにユカに謝ったー。
だって本当は悪いなんて、これっぽっちも思っていなかったからねー。
ただ、ここまで言わせた母に、恥をかかせたくなかっただけー。
ただそれだけー。
『ユカさん。胸ぐらを掴んだ事については奈央を許してあげてください。』
母はそう言って、今度は担任の渋川の方へ向き直ったー。
『先生、今ごらんになられたかと思いますが、ユカさんの胸ぐらを掴んだ事につきましては、娘からユカさんに謝らせました。
しかし、ユカさんのお財布を盗ったかと言う問題につきましては私が今、娘に直接聞いてみますからちょっと待ってください‥。』
母はそう言うと、
あたしの方へ顔を向け、
『奈央。ユカさんのお財布を盗ったのは本当に奈央なの?』
と聞いたー。
『母さん。あたしはユカの財布を盗っ出ない。』
あたしは昨日から何回この言葉を吐いただろうかー。
些か嫌気がさしてきてー。
益々ぶっきらぼうに答えたあたしー。
もう開き直ってたのかも知れないー。