「劉、森の中では罠と奇襲に気をつけろ。 鉄布杉(てっぷさん)が出来るヤツはお前しかいないんだからな」
鬼島の忠告をうるさげに聞いた劉源治は、配下の連中に
「行くぞ!」
と一声咆えると先発隊を率いて森の中に分け入っていった。
「奴ら来たネ。 罠思い知るいいヨ」
八極門下で、リンの弟子にあたる李(りー)双生児が闘志をむき出しにして言うのを、晋と剛がたしなめる。
「奴らは甘くないよ」
「多少の足止めにしかならんと思うが… まぁ、油断は禁物だな、チェン」
「日が昇ってきやがったな。 そろそろ先陣が森に差し掛かる頃か …‥」
神一久らは、谷間の凹地に身を潜め、戦いの始まりを辛抱強く待っている。
「響子と美奈はこれ、使い慣れてるよね? 由紀は子供達についてて」
イーズが響子たちにボウガンの様な物を手渡す。
弩(ど)と呼ばれる武器で、引き金を引けば篠竹の矢が飛ぶ仕組みだ。
「ビアンカとあたしが入り口を固めるから、討ち洩らした奴らを手加減抜きにしとめるのよ」
そう猛々しく言い残し、イーズは表に出た。
「ほーっ、奴ら意外に間抜けだよなぁ」
森の奥から響いてくる悲鳴と怒号を耳にして、リンが思ったままを口にする。
「猪みたいなのが先陣ってコトは、やっぱり陽動隊だってことさ」
晋の面は逆に引き締められていく。