誰かを好きになった事も経験の無かった私は、どうしたらいいのかすらわからなかった。
気が付けば、周りの女の子に山口直哉の事を聞いてまわっていた。
どんな人なの?
ただ彼を知りたかった。
話した事すら無かったから、知りたかった。
すると、一人の友達がやめときなよ、と鼻で笑うように私に言った。
どうして、と私は言った。
そりゃあ私は可愛くなんてないけどさ、とも私は言った。
「違う、違う。
エリカに問題があるんじゃなくてさ。」
そう言ってから、友達は指を指す。
私は、友達の指差す先を目線で辿ってみる。
そんな私の目線の動きに合わせて友達は続けた。
「中西サクラ。山口くんの彼女。」
友達の指差した終着点で、え…、と私は声をもらしていた。
中西サクラ。
一言で説明すれば、私とは何もかも正反対の彼女。
共通点と言えば、容姿で周りに人が集まる事。
ただ私の場合とはまるで逆なのだが。
昔から美人だった。
その美しさが昔よりもはるかに妖艶さを増していた。
そして、モテはやされる事に慣れてもいた。
沢山の異性から彼女を想う輩の中には人目をはばからずに想いを告げる人も中にはいた。
そんな輩達に彼女は、立場をわきまえなさい、と言わんばかりにこう言うのだ。
「もう一度、同じ事を言えるの?」と。
自分の美しさを良く熟知していた。
そして、彼女は私のような美しくない物を嫌った。
まるで美しく刺のある薔薇の花のように。
ところが、山口直哉に対する私の想いは絶望するどころか、熱く胸を焦がしていった。
諦めたくない、そんな気持ちでさえも生まれて初めてだった。
ようするに、中西サクラのようになれば良いのだ。
そうすれば、山口直哉を振り向かせる事が出来るかもしれない。
振り向かせる事が出来なくても、山口直哉に想いを告げる権利を掴み取れるに違いない。