甘いワナ?

夢月  2008-01-16投稿
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谷澤くんとデートの約束をさせられてから、
私は鬱々として、もの思いにふけっていた。

彼の話にも生返事をしたり、ぼーっとしていて聞き返すこともあったりした。


「―――――いいかな?」

今もまた、彼の話を聞き逃してしまった。


「……え?」

「千里…って呼んでいいかな?」

彼は少しぎこちなく、それに恥ずかしそうに笑って言った。
「う、うん。」

思いがけない彼の提案に、それ以上言えなかった。

今まで名前で呼んでくれるのは、
家族とか親戚くらいだけで…

彼に名前で呼ばれるのは、嬉しいけれど、少しくすぐったかった。

「千里…も名前で呼んでくれない?」

「…………」

思わず彼に言葉を返すのを忘れた。

いつも呼んでみたいと思っていたから。

彼に心の中を読まれたのかな…なんて、バカみたいなことまで考えた。


でも、
彼は、私が無言なのは名前を覚えてないからだと思ったのか、
バツの悪そうな、それでいて少し落胆した表情を浮かべていた。


彼にそんな表情をさせてしまったことに私は後悔した。


―――弘人くん。

彼の名前は初めて聞いた時から
忘れたことは一度もなかった。

ずっと好きだった彼の名前を忘れるなんてありえない。

私がずっと彼に片思いしていたこと、まだ気付いてないのかな…


「……弘人くん。」

私は小さい声で彼の名前を呼んだ。


初めて呼んだ彼の名前。


自分でも不思議だけど、目が潤んできて涙が出そうになった。

「……弘人くん。」

もう一度呼んでみた。

彼は嬉しそうな笑顔を見せて、そっと手を握ってきた。

少しためらってはいたけれど、ゆっくりと顔を近付けてきた。

「弘人くん。」


―――たとえ、あなたが誰を好きでも、
私はあなたのことが好きだから……


想いが伝わるように、私は目を瞑って彼のキスを受け入れた。

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