「リン! 打ち合せ通りに頼むぞ」
山際晋は、棒を片手に走り始めた林白龍(りんぱいろん)の背に念を押した。
「わーった! んじゃひと暴れしてくるぞ」
李兄弟を左右に従え、明るく返事をよこすと、リンは韋駄天走りで門を飛び出していく。
「はぁ … 相変わらず勢い充分だけど、引き返すのを忘れなきゃいいな」
幾分心配げな晋に、村山剛はヒゲ面を向ける。
「リンはあれでも奇襲や撹乱(かくらん)を心得てるからな。 あれでOKさ」
「はは、違いない。僕もそれには悩まされたからね」
山際晋は苦笑した後、剛に目配せをして自らは住居の裏手に回り、薪(まき)の山に身を隠した。
「おーっ!でけ〜のが咆えてるよ。 李芳‥左!李光‥右!」
猛獣のように猛り狂う劉源治をおちょくる様に、リンは李兄弟と三方に別れて下っぱ連中を次々と叩きのめしていった。
スピードでリンら三名に適うものはいない。
「ふん、まずは小手調べのつもりだろうが … ガキ共が、活きのいいのも今のうちだぞ」
鬼島は特殊部隊にいたころからの部下、木崎とジェフに目で合図を送り、井田耕造に『そろそろだ』と声をかけていた。
「…出番だね」
爬虫類を思わせるような感情のない表情で神(じん)はつぶやくと、音も立てずに住居に忍び寄っていった。