監督室にて。
「監督、一体どういう用事で。」
古谷はけわしい顔をしながら、
「稲垣、今年の新入部員を見てどう思う。」
稲垣は少し考えるそぶりをして、
「んー、結構当たりだと思いますけどね。」
と、答えた。
稲垣は話しを続けて
「まずは五十嵐と桃木。二人は県ベスト8の大仲シニアで三、四番を打っていた。このチームの打撃の要になるでしょう。」
「・・・続けて。」
「そして氷室、この人は竜谷シニアでサードを守っていて中学3年の公式戦通算では守備率.989だった守備の匠ですね。」
しかし古谷は顔をこわばらせたままで、
「定位置にピッチャーはいなかったがな。」
と、皮肉まじりにそういった。
「・・・」
「いくらお前のサブポジションが投手だとしても所詮サブはサブだ。お前の打撃力は評価しているが投手としては体力的にも技術的にも一人で予選で投げきれる力がお前にあるとは思っていない。」
稲垣は古谷を向いたまま
「では俺にはピッチャーが向いていない、と。」
と、言った。
すると古谷は
「勘違いするな。あくまでも現時点での話しだ。体力とかは夏の大会までに鍛えればいい。・・・リリーフも必要だがな」
と独り言のような事を言った古谷は一枚の紙切れを稲垣に渡した。
「スケジュールですか?」「そうだ。一ヶ月間の予定はそれに書いてある。」
スケジュールを受け取った稲垣はそれを眺めた後、
「本当に『この』日程で進めるつもりですか?」
「そうだ。『この』日程でいく。」
「わかりました。では俺はこれで。」
「おう、気をつけて帰れ。」
一人だけ残った監督室。古谷は一人今年の東谷学園の入学者の名簿をめくっていた。
そして古谷はある名前に目を止める。
「神谷・・・」
暫くその名前を眺めていた後、
「これも・・・運命なのかもな・・・」
ハァ・・・と大きく溜息をついた後古谷もその監督室を後にした。