このカフェの、この場所に座るのは何年ぶりだろう。
9年?いや、もう10年になるかな?
いくら時を重ねても、ここはまったく変わっていない。
二人で何度このテーブルにつき、二人で何杯のカプチーノを飲んだ事だろう。
さっきまで見てた映画の感想を言い合ったり…
降りしきる雪をただ見つめていたり…
ファッション雑誌のモデルを批評しあったり…
ずいぶんと昔の事だと思っていたけど、ここに座るとまるで昨日の事のように思えてしまう。
そこの入口から今にも君がやってきそうな…
やめよう。
ここで君を思うのはあまりにリアル過ぎて苦しい。
このカフェは場所柄昔からよく躾けられたワンちゃんとそのオーナーに人気がある。
今も、一番奥の席にバセットハウンド。
テラス側にはアイリッシュセッターとボストンテリアが慣れた様子で落ち着いている。
なのにうちのラブラドールはなんでこう落ち着かないんだ。
さっきから椅子の周りをグルグル廻ったかと思うと、テーブルの上をクンクン。
「ブラン!恥ずかしいからじっとしてなさい!」
まだこの子には早かったかな?
というより、躾けの悪いこの子にはこんな上品な場所は無理だったのかも…眞吾は入って5分で後悔した。