彼の恋人

高橋晶子  2008-01-16投稿
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雪がぱらつく早朝、博文はいつものように一番乗りで教室に入って来る。だが、博文の席にはいる筈のない人物が座っている。佳純だ。しかし、佳純は2ヶ月以上前に死んだ筈だ。博文は佳純に一声掛けてみる。
「佳純さん?」
博文の声にビクリと反応した。博文の方に顔を向け、開口一番で「おはよう!」と言い放つ。
不思議な場面だ。2ヶ月程前まで夜の授業を受けていた佳純が早朝の教室に一人佇んでいるのだから。博文は呆然としてしまった。
すくっと立ち上がった佳純は博文の方に歩み寄ると、両手を博文の肩に乗せて抱き締める。博文は狼狽える。
「感じる……博文の温もり」
「佳純さん。俺を感じるって、まさか……?」
「私、神様に頼んで1時間だけ生き返れたんだ。肩に力が入ってるのが分かるでしょ?」
確かに佳純の手が肩に触れているのを感じる。心臓の動きが激しくなる。
「顔見知り同士が机の落書きで文通し合ってたとは思わなかったね。一度ちゃんと顔を合わせて、恋とか夢を語り合いたかったな」
「俺達に本当の自分に気付いて貰えました?」
「うん、十分伝わった」
佳純は、なかなか他人に理解し得ない苦しみを博文達に知って貰えただけでも嬉しかった。博文は核心を突く問いを佳純に投げかける。
「俺が大学に受かったら、好きな人を教えてくれる約束でしたよね? 誰が好きなのか、言ってもいいでしょ? 死人に口なしでは済まされませんよ」
佳純は顔を赤らめ、一瞬躊躇う素振りを見せる。勇気を振り絞って告白する。
「クラス以外の仲間では博文が一番好きだった」
博文は耳を疑った。好意を持っているという意味で女の子に告白された事は今までなかった。佳純は更に続ける。
「私には、狭い枠に縛られない生き方を望んでいる人に映った。私も、本当の自分を勝ち取るためにその枠を抜け出さなきゃならない。でも叶わなかった。博文の行く所、何処でもいいから連れてって! 十分楽しめたら博文から離れる。ほかの誰かを好きになっても妬まないよ。だから、今此処でキスして!」
佳純の唇が博文に近付く。唇が触れ合った瞬間、博文は現実に引き戻される。普段は掻かない寝汗がびっしりと身体をまとわり付いている。
こうして新しい年が始まった。



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