突然思いがけず扉が開いたので、前につんのめりながら中をよく確認もせずに私は挨拶をした。
「あの…。広告を見たんですけど…。」
と、姿勢を起こす。が、誰も見当たらない。
「こんな古臭いドアノブがついた扉が自動ドアなの?」
眉をひそめながら文句を口走り、扉の方へ振り返る。
その瞬間だった。
「古臭くて悪かったわね。」
私はその声に驚いて、声のした方に目線を向けたがやはり誰もいない。
「下よ、下っ!」
と、しびれを切らしたような声がした。
声の指示通りに下へ目線を下げると、そこには小学生くらいの有名ブランドの真っ白いスーツを着た女の子が、生意気そうに腰に手をあてて私を睨んでいた。
「あの…大人の人は…。」
と私が言うと、女の子はさらに目を吊り上げ捲し立て始めた。
「こう見えても、私は25歳のれっきとした税金を払っている大人よ!」
その言葉の意味がすぐには理解出来ずにあんぐりしていた私を後目に、女の子はミュールのヒールをならしながら、部屋の中心に置かれた高級そうなソファにドカッと座った。
足まで組んで、慣れた手付きで煙草を一本箱の中から取り出し、また慣れた手付きで火をつけた。
それから、ゆっくりと煙草の煙を吐き出して私を見ながらニッコリ笑ってこう言った。
「亜久里事務所へ、ようこそ。」