「はじめまして。
開くんの担当医の石井です。座りなさい。」
「はぁ。ありがとうございます。あのっ、あたし…。」
「舞さんですよね!?開くんから伺ってました。」
「そうですか…。」
「色々と聞きにきたんでしょ?」
「はい。
…手術はしないんですか??」
「彼が手術を断りました。自分で固く誓ったようです。」
「抗癌剤で治るんですか?」
「あなたは、彼のどこが癌に侵されてるか知ってますか?」
「いえ…。聞いてません。」
「彼は、喉が癌に侵されています。手術をすれば、癌を取り除くことができます。しかし、手術をすることによって、声帯を傷つけてしまい、癌を取り除けても、もう一生、声を出すことが出来なくなってしまうんです。開くんが、手術を断ったときに、理由を聞きました。
『いつまでも、ずっと話していたい奴がいるんです。死ぬまでずっと、くだらない話でも良いから話していたい奴がいるんです。俺が話せなくなったら、悲しむ奴がいるんです。
…。
病気になったことに後悔なんて出来ない。運命だから。過去は変えられない。
でも…。未来はいくらだって変えられる。
俺の残りの未来を好きな奴との思い出で埋めつくしたいんです。
だから、手術はしません。』
そう言ってましたよ。
あなたとの思い出を彼は選んだんです。」
涙があふれた。
知らなかった。
開が手術を望まなかったことが、やっとわかった。
うれしかった。
あたしはこれから、彼との思い出を今まで以上にたくさん作っていこう…!!
そぉ、心に誓った。
諦めたら、未来は無くなっちゃうんだから。