「お嬢さん、顔色がよろしいようで」
そこにいたのは紛れも無い外国人、マークである。
今一度言うが彼は舌を巻くような英語を話しているのであって、日本語などという言語は話せない。
これも耳に付けているヘンテコ機械のお陰である。
「あなた一度眼科へ行ったほうがいいんじゃない? きっと色盲ね」
「お気遣いありがとう」
ジョークのつもりなのだろうが光には皮肉にしか聞こえなかった。
「何の用? 私いまサンドイッチが食べたくて仕方がないんだけど」
「外国に行くに当たってパスポートを”発行”して来た。 どうぞ」
といって渡されたのは赤い日本のパスポート。
「発行? 出来る訳無いじゃない。 私は今まで車の中にいたし、証明がないとすぐには作れないはずでしょ?」
「ええ、その通りですよ。 普通に発行すればね。あなた映画を見ないんですか?」
そう言い残しマークは去って行った。
「映画………?」
つまりは偽造である。
「ち、ちょっと!!」
言いたい事は山ほどあったが、光はふて腐れながらサンドイッチを食べ終えた。
キャリーバックにもたれながら男子トイレの前に待たされていた光とJは周りからみればまるで無関係。
「いやぁすまねぇ、相変わらず日本のトイレは清潔だな」
満足そうな望を尻目にイライラを隠し切れない光。
「さ、早くいきましょ」
「まぁ、そう焦るなよ。 楽しい楽しい旅の始まりだぜ?」
いい加減キレそうな光の肩にマークの大きな手が乗っかった。
「必要なんだよ、こういう態度が。 わかっていると思うがここは既にターミナルの中だ。 つまりは絶対的な監視下にある。 俺達は飽くまでも観光客なんだよ」
心の中で納得してしまった自分が光は憎かった。
「そういうことだ。 あっち着いたら何したい?」
無論、この態度も憎かった。
仕切に時刻板が変わるのが何かと気になる。
「ところで私達はどの便に乗るの?」
光以外の一同が目を合わせ、口元を吊り上げた。
「お嬢様、ご安心下さい。 特別にこちらをご用意させて頂きました。 空のオアシスへようこそ」
望がお辞儀をした。