あの放課後、千里が呟いた言葉は、自分の胸だけにしまっておいた。
何も聞かなかったかのように千里にも接した。
少なくともそう接しようと思っていた。
でも、
心の中では彼女に裏切られたという想いがあって、
知らず知らずに冷たく当たってしまうこともあった。
彼女と付き合い始めた理由を思えば、自分に彼女を責める権利なんかないのに…
俺が理不尽に冷たく当たってても、彼女はいつも
「ごめんね…」
なんて謝ってきた。
――なんで謝るんだよ…
彼女の態度がまた自分をイライラさせた。
――別れたいなら、別れ話を切り出せよ。
――機嫌なんて取ろうとするなよ。
そう思いながらも、
自分からは絶対に別れ話は切り出してやらないって心に決めていた。
――彼女の思い通りになんてなってやるもんか。
変な意地を張っているのはわかっていた。
でも、
自分ではどうしようもなかった。
心の中で荒れ狂う暗い嵐に呑み込まれる…
――彼女から別れ話を切り出されたら…
――その時は、彼女が呆(あき)れるくらい潔く別れてやろう。
――未練なんてない。
――もともと誰でも良かったんだし…
――彼女じゃなきゃダメな理由はない。
――もっと可愛い人に乗り換えればいいじゃないか。
そう何度も何度も自分に言い聞かせたけれど、
心の中にかかる暗い靄(もや)は払うことができなかった。