沸かしたお湯でインスタントのコーヒーを一口飲んで思い出した。
姉の幼なじみでたまにうちに遊びに来てた「綾子ちゃん」の色白でぽっちゃりめの顔。
そういえば都内に住むサラリーマンとの結婚式にも姉は招待されたんだっけ。赤ちゃんが生まれたとはおめでたい。
姉も相手さえいれば結婚して子どもを産んでもおかしくない年頃なんだ。
あたしの卒業までは、て頑張ってくれてるのを知ってるだけにイタイ。
ごめんねお姉ちゃん。
ホームにはうっすらと雪が降りつもりはじめていた。大学進学のために上京してきて初めて見る「東京の雪」だ、とぼんやり思った。
三年前のある日突然、父親の経営する会社が倒産した。父が行方不明になって、ちっとも事情を知らなかった母と娘三人が残された。
高校生だった末っ子のわたしも当然中退して就職するつもりでいたのだが、長女が「三人いるんだから一人ぐらい大学にいったらいいわよ」と無理をして入学準備してくれたのだ。
思えば小さなころから、働き詰めの母にかわって、年の離れた姉たちが面倒をみてくれた。初恋の相談相手も、家庭科の提出物を手伝ってもらうのも、行儀作法で叱られるのも、母ではなく姉たち。