「ふん … 小僧と侮ってはいたが、なかなか策士がいるな。
まず伍長を倒して五人組をバラバラにした後、矢攻め、長柄隊の出動 … か」
攻撃側の主将、鬼島義行は戦況を冷静にながめていた。
ピシュッ! と鋭い刃鳴りが空を裂く。
井田耕造に打ちかかっていった村山剛の仲間が、棒もろとも両断され、血煙と共に倒れふす。
その光景を目のあたりにした連中がサッ、と井田を遠巻きにした。
「斬る … 」
…死の宣告。
井田耕造は、刀傷に引きつれた顔を男達に向ける。
ハアーッ! と裂帛の気合いと共に劉源治の拳脚が風を巻いて襲いかかる。
村山剛は、タ、タンッ、と軽快なステップで、常に相手の斜め45度あたりに身を滑らしていく。
形意拳の【三才歩(さんざいほ)】である。
フンッ、と急激に横隔膜を収縮させた村山剛は、劉源治の突き出した拳に合わせるように下から両拳をすりあげる。
タンッ、ズダンッ! と三才歩で強烈に踏み切ると劉源治の胸からみぞおちにかけて発勁を両掌でたたき込んだ。
形意十二形拳のひとつ、【虎形(フーシン)】である。
完全に足が止まった劉源治に、村山剛は再び両掌で胴をはさむ様に勁力を打ちこむ。
虎形拳最強の技法であり、剛の得意技でもある【虎撲手】である。
劉源治は口からごぼっと血の泡を吐き出し、ゆっくりと崩れ落ちていった。