2030年
11月15日
東京 練馬区某所
その部屋は暗く、雑誌やゲームソフトで散らかり、そしてその部屋の主は、目を覚ましたらしくベットがモゾモゾと動いた。
男は傍らに置いてあるデジタルの目覚まし時計を確認する。
10:20
『そろそろ…起きるか…』
ベットから出て雨戸を開ける。
目の前には黄緑に変色した広い芝生と、葉が枯れて殺風景になった木々。そしてその奥には都心のビル群と二つの東京タワーが見える。
そして太陽は既にかなりの角度にまで上がっていた。
「寒っ…」
温暖化が進み、冬の平均気温が3度上がっていた東京も、珍しく寒い朝を迎えていた。
男は自分の部屋を出て、アンティーク様式の広い廊下を歩く。
髪の毛はぼさぼさに伸びて、背は猫背。
しばらく髭を剃っていないのか、髭は不潔な雰囲気を醸し出し、そして何より、ヒョロヒョロの体付きだった。
男は洗面所に行き顔を洗う。
その時に鏡に自分の顔が写る。
『俺も随分と変わったな…』
老人の様に物思いに耽り数秒間口を半開きにしてボーとした後。男は食堂へと向かった。
*
どう考えても無駄に広い食堂の中に無駄に広い机があり、その片隅にこの豪華な空間とは不似合いな朝食、ご飯と味噌汁と漬物がぽつんと置いてある。
居るのは男だけで、他に人の気配は無い。
いつもの光景だ。
彼の両親は二人共社長で、それぞれの出勤時間に家を出ている。
しかし両親は息子を起こしもせずに放置して何も言わずに出勤していた。
それが彼の日常であり、一般常識であり、全てだった。
親は全く息子に何もしない。
そして息子も何もしない。
家族の絆など皆無だ。
それが昨日であり今日であり、そして明日でもある。
男も特にこの現状をどうにかしようとも思わなかった。
全て、何をやるにもめんどくさい。
何もやりたくない。
そして出来れば楽に死んで、くだらないこの世からおさらばしたいと考えていた。