突き出してきた開いた手を見るとそこには小さなストラップがひとつあった。
「…これ、…前にあなたが落としたのを、私が拾って…」
それは以前俺がなくした携帯に付けていたストラップだった。
俺はすごく嬉しかった。俺にとってすごく大切なものだったから…
「ありがとう、ホントにありがとう!マジで感謝するよ!」
彼女はにこっと笑った。
その顔は可愛かった。
俺は何かお礼をせずにはいられない気持ちだった。
「何かお礼させてよ!そうだなぁ、じゃあ俺に飯おごらせてよ!」
その言葉は全く無意識に、しかも自然に出てきた。そのくらい俺の気持ちは高揚していた。
「そんな…とんでもないです。ただ落し物拾っただけなのに…」
彼女の言葉に俺は瞬時に反応していた。
「お願いだよ、おごらせて!」
どうしてもお礼がしたかった。普段なら女にこんなに積極的に話しかけるなんて夢のまた夢なのに。そんな性格はどこかに吹き飛んでいた。
多少強引だったが、なんとか食事に連れていく約束が出来た。
午後の授業が終わり、俺は待ち合わせの学食の前に走って行き、彼女が来るまで携帯に付けたストラップを眺めていた。少し遅れて彼女もためらいながらも来てくれた。
その時俺は優しさの力を思い知った。