俺が彼女と出会ったのは、たしか日本がまだバルブ期にあり、そこらじゅうに汚い金が舞い、ジュリアナと言う物が存在していた15年前の秋の頃だった。
その夜俺はいつもの様に気の合う友人と飲みに行く約束をしていた。
行きつけの居酒屋で、うまい酒と料理に話がはずみ、ほろ酔い気分で次の店に向かった。
初めて訪れたその店は路地裏にひっそりと佇み、茶色いレンガ風の外壁に白い扉が何とも印象的なスナックだった。
たいがいこの手の店は、長いカウンターテーブルに一つ二つのボックスがあり、50過ぎの婦人が常連客に酒を呑ませる、そういったものを頭に描きながら緊張に震える手で恐る恐る扉を開けた。
「いらっしゃいませー」
驚いた。
若い女の声だ。
中には20代前半の若いホステスが4人と店には似合わぬいで立ちの今で言うとてもセレブなママがいた。
一人のホステスが、呆気に取られながらも、若いホステスがいた事で内心ほっとしている俺達をよそ目に、無表情で奥のボックスに通してくれた。
そこはボックスと呼ぶには勿体ない御座敷テーブルだった。
『なんだこの店、座敷があるじゃん!』
そう言って腰を降ろす。
さすがに座敷は、あたかも自分の家で寛いでいるような錯覚さえ覚える。
なかなか考えたものだ。
「何呑まれます?」
切れ長の目をした、どこか冷たげな表情の女が付いた。
店に入って来た時、無表情で案内してくれた女だ。
この女とは話が弾まない。
店内を見渡していた友人が言った。
『あの子お前のタイプじゃねぇ?』
友人が言った方向に目をやる。
カウンター越しに見える彼女は、長い髪をアップにした財前直美似の綺麗な女性だった。
一瞬俺の中で、時間が止まった気がした…