〜一章 出逢い〜
「蒼井 さくらです!」
秋になろうとする季節が乾いた空気を投げ込んでくる十月の教室に声が響く。
「親の都合で転校してきました。」
彼女は少し目を伏せたが、
直ぐに前を見直して続ける。
「早く馴染みたいのでどんどん話しかけてください。部活は弓道をしていたのでこっちでも弓道部に入るつもりです..」
窓際の後ろから二番目の席で頬杖を付いてポーッと聞いていた正は少し我にかえった。
…うちの部か、
てか今時こんなベタな転校スピーチ..
..でもまぁウチの学校でなら美人かもな。
てか頭は良いのか?
無意識に指の中を行き来していたペンのスピードが早くなる。
「じゃぁ今日は席がないから休んでる内田君の席に座ってちょうだい。」
メガ先こと、菊池先生が教壇の前の席を指で指す。
「はい!」
武の道を歩む人間らしい威勢のいい声がそれに答える。
席に着いた彼女は持ってきたバックから明らかに多すぎる教科書を出し始めた。
「蒼井さん、堂々とオキベンですか..?」
少しため息混じりのメガ先。
少し困惑しながら
「時間割を聞いてないので...」
と新入生。
恥ずかしくなり一瞬にして顔を赤らめるメガ先と生徒の笑い声。
メガ先お得意のボケかましを新入生は初日から拝むことができたのだ。
またか...と冷ややか視線を送っていた正はペンを躍らしていた指をポケットにしまった。
教室の後ろの席は冷めた傍観者でいられるから正のお気に入りだった。
席替えがくじ引きなのに、毎回正が後ろの席をとれるのは正がクラスメートの誰からも愛されている証拠だ。
膝の上に置いてあった弓道教本をしまうと心の中でチャイムがなるまでのカウントダウンをとりはじめた...