遺書

正午  2006-04-13投稿
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そこには何も書くものがなかったので、僕は自分の血で遺書を書こうと思った。
僕が居るこの部屋には何も無かった。僕と、白い壁と、白いドア。それだけだった。
人指し指にちくりと軽い痛みが走り、プクリと血の玉ができた。僕は今から遺書を書こうと思ってる。文章を書くのは得意だし、何より好きだった。そして僕には言いたいことが文章で伝えられる自信もある。
はっきり言って、僕は『遺書』というものに憧れている。だって素敵じゃない?死ぬ前に愛を語るのもまた良いじゃん。素晴らしいじゃん。逆に恨み事を原稿用紙百枚に綴ってしまうのも良いかも知れない。僕の遺書によって世間に波紋がよぎるのも良い。まぁその時に僕はこの世界に居ない訳だし、それはそれで良いかも知んない。
じわりと、鈍い痛みが人指し指にウズいてる。血は、指を伝ってゆく。
━━━何を書く?
━━━何を伝える?
━━━何を書けば良いんだっけ……?

「………あれ?」
僕は今、やっと気付く。僕はどうしてここに居る?
僕は記憶がなくなっている事に気付いた。
まずは自分の記憶を辿る事から始める事にする。

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