「何?」
「キス。」
彼は私の額にかかる髪を左右の手で、まるでカーテンを開くように耳にかけそっと口づけをした。
タバコの苦さが心地よいと思った。
初めてのキスだった。
私は体中で鼓動を聞いていた。
私より大人な友達はキスは生々しいものだと、自慢していたが、私はそうは思わなかった。
「…ごめん。」
彼のビターな声がつぶやいた。
「キス………もう一度して…」
呟くように私は、ねだった。
3月に高校を卒業した。
一年遅れた19での卒業だった。
私は最後まで年のことは黙っていた。
普通でいたかったから。
大学には行かない。
働きもしない。
プー太郎だった。
私はこれからのだらだらとした生活に心踊らせていた。
出始めに山に行こう。
そう決めていた。
「ワダミ。写真撮ろう。」
にこにこと解放感に満ちた笑みで友達が袖をひいた。
了解の返事を返しながら、私は彼をみた。
「いくよ、はいキムチ☆」
おかしなかけ声だといつも思う。
なぜキムチ?
ラッキョウでもカレーでもなんでもいいじゃないか。
どうでもいいけれど。
この時の写真を後にもらったとき、私は自分の正直さに酷く感心したのを覚えている。
私は一斉にレンズを見つめる顔を否定して、その向こうでリアカーを引く彼をみていた。