海は、いつの間にか、すっかり冬になっていた。コバルトブルーに輝く波も、焼け付くような太陽も、水遊びを誘う砂浜も、もうそこにはなかった。
私は、一つ、くしゃみをした。それまで、季節が冬に移っていたことさえ、私は、気付いてはいなかった。
「寒いの? 家に入ろうか?」と彼が言った。 けれども、彼の家に入ってみると、そこには、身体を暖めるものは、何一つなかった。
私は、一つ咳をした。 「薬が、欲しいな」 私が、彼に言うと「薬はなにもないよ」 「何故?」 「僕には、必要ないからさ」と彼は、答えた。私は、薬を飲むために、自分の家に帰りたくなった。
私は、急いで家に帰ると、暖かい部屋のテーブルの上に、薬箱が、置かれてあった。「あ〜、良かった。これで、安心だわ。」そう呟いた瞬間、胸の一番奥のなにかが一つ、コトリと落ちて、亡くなった。でも、私は、なにが亡くなったのか、まだわからなかった。