たぶんアタシらは、
あまりにも未熟者で
未完成で決定的なパーツが欠落していたから、
ただただ目から鼻から
塩の水を流れ落としながらわぁわぁ喚いて、
いつまでも抱き締め合うことしかできなかったんじゃないかな。
初めてアタシの眼に入ってきたアンタは、
なんだか哀しいくらい笑っていた。
たぶん自宅の鏡前にて
何度も訓練したのであろう唇のカタチ。
首の角度。見ひらく瞳の大きさまで。
半径3m以内には特に
不自然な愛嬌を振り撒いていたっけ。
『面接にきました』
そういうとアンタは
ボロボロに汚れたスタンスミスのスニーカーを
それはもう大切そうに脱いで、揃えて並べてだだろ。
アタシがそれをヒョイッて靴箱にしまってあげたんだ
憶えてる?『汚いね』ってアタシが言ったら、
アンタはアタシを叩いたろ。
そのときアタシは知ったんだ。
というか解ったんだな。
アンタとこの先ずっと関わるんだって。
何か、凄く大切な何かを共有するんだってさ。
理由も根拠も前触れもなく、
ただただ体中で確信してたんだ。
ねぇ、憶えてる?