時間局の六階には時間旅行者達が集まる。旅行者は基本的には旅行代理店経由で時間旅行することになる。六階にはそんな代理店のために控え室が用意されている。正確には時間移動準備室。この部屋では代理店の社員により時間移動前の心構えや注意を説明される。当初はこの部屋しかこのフロアにはなかった。しかし、時間旅行の安全性が保証されるにつれ、部屋を予約する代理店も増え、六階は人の往来が激しくなった。そんなことからテナントで商店が募られ、商業区域化したのだ。気がつけば、国内有数のショッピングモールとなっていた。通称を“フロア・シックス”と言う。
青年は思いついたように思いだした。
(よくテレビで連休のニュースの旅行者数を出す時、背景に現れる画面と一緒じゃん。ここだったのか、それにしても人が多いな。)
「!」
「ようこそ、フロア・シックスへ」
いきなりだった。天井のマイクから若い女性の声が聞こえてきた。人が入ってくると発声される仕掛けのようだ。
(マイクか…。ってか役所の中にしては派手すぎじゃないか?ギョウセイカイカク?ってやつか。まだ時間もある。とりあえず飯でも食うか。すっかり忘れてたしな)
青年はいくつか飲食店を回って、和食系の店に決めた
(時空亭。いかにもって感じだな)
案の定、メニューは各時代を意識したものだった。だが迷うことはなかった。“平安王朝御膳”ブルジョアっぽさにひかれた。
「すいませ〜ん、注文いいですかぁ?」
青年が注文を頼もうとした時、先に入店した女性が手を挙げた。青年とは同世代のようだ。
「この、へいあんお〜ちょ〜ご…を」
店員に向かってメニューに指を指す。
「平安王朝御膳ですね。わかりました。他にご注文は?」
「結構です。」
(一緒じゃないかぁ…。まいったな。まぁ、いい。ガキじゃないし、関係ねぇ。俺も頼もう)
「すいません。注文お願いします」
青年が手を挙げた次の瞬間だった。女性はバックから、青年がこれから参加する元録旅行を特集した旅行雑誌を取り出した。
続く