「じゃ、後はイーズ達にまかせるよ」
神一久(じんかずひさ)の鼻の下に手をやり、呼吸が止まっているのを確認すると、山際晋は門を身軽に飛び越えていく。
「この … 小娘がぁっ!」
白虎に配下を二名も打ち倒され、リーダー格の神まで失った田島。
死体の手からナイフをもぎ取ると両手に構え、段英子(たんいーず)に強烈な殺意を向けた。
井田耕造は、居合い腰のままうっそりと佇立している。
仲間の無残な姿を目にした男たちは、井田に棒の先を突き付けたまま、動けずにいた。
「どうした、来ないのか…ならばこちらから行くぞ」
一瞬、周囲に冷気を漂わせた井田が、歩を運ぼうとした刹那、人垣を分けて姿を現した者がいた。
イーズの手元から、目まぐるしい速さで剣光がほとばしる。
攻撃のパターンを次第に読んでいた田島は両手のナイフで剣身をガキッ、と挟んでニヤリとほくそ笑んだ。
「お嬢ちゃん、これまでだな」
「ふん、その言葉そっくり返すわよっ!」
言うが早いかイーズはあっさりと剣を放し、田島のみぞおちに猛烈な蹴りをみまう。
「ぐえっ、こ、この …」
「ハッ!」
鋭い掛け声を伴い、前かがみになった田島の顔面を両掌が強打する。
形意十二形拳のうち、虎形の技【虎托(こたく)】であった。
『猛虎』のあだ名を持つイーズは、常人とはケタ違いの勁力の持ち主である。
脛骨を粉砕され、田島は動きを止めていった。