あの日、俺はついに彩香に告白する決心がつき、走って、学校へ戻るところだった。
きっと、彼女がいるであろう、図書室へ向かう為に。
その途中で、事故にあってしまったわけだが……。
どうして、もっと早く、1日でも早く告白をする決心がつかなかったのだろうか。
どうして、現実はこんなにも残酷なのだろうか。
俺の頭の中など、このじいさんにはすべてお見通しのようだった。一通りの回想が終わったのを見計らったかのように、じいさんは口を開いた。
「黄泉の国の住人になる人全てに、時間を逆戻る特権が与えられます」
俺は、言っている意味が分からず、思わずじいさんの顔を見つめる。相変わらずの穏やかな笑顔だった。
「戻ると言っても、亡くなる1ヶ月前ですぞ。その1ヶ月間で、未練を晴らしていただき、心置きなくこちら側へ来ていただきたいと思ってます」
あ、と言ってじいさんは更に付け加えた。
「もちろん、死ぬ事実は変わりませんよ。1ヶ月後には必ず死にます」
どうしますか?と、俺に微笑みかける。その顔が初めて俺には不気味に見えた。
しかし、この提案は、俺にとって思ってもみないチャンスだった。1日でも早く言えたら……と後悔していたのだから。
俺の気持ちはもはや決まっていた。