『お嬢さん、好きな動物は何ですか?』
男にそう聴かれ、私は咄嗟に
『わ…私は鳥が好きです。特に、小さい鳥が…。』
すると男は嫌みっぽく笑い、
『ふ〜ん。』
そう言いながらメロに触った。するとさっきと同様、一瞬にしてメロは鳥に変わり、メロの姿はどこにもなくなった。
それと同時に沸き上がる歓声。
『ちょ…何勝手に人の犬を。どこに隠したんですか。返して下さい。』
私がそう言うと、男は何食わぬ顔で
『何をおっしゃるんですかぁ?あなたの犬ならそこにいるじゃないですか。』
と言った。
『ふざけないで!これはあなたの持ってきた鳥でしょう!メロを返して!』
叫んだが無駄であった。
『おやもうこんな時間。皆さ〜ん、今日のマジックタイムはここまで。さよ〜なら。』
そう言うと男はとっとと去って行った。観客も皆、満足そうに帰って行き、最後には私とその鳥だけが残った。
あれから数週間がたつが、今だにメロは帰ってきていない。もちろん、あの手品師の姿も見ていない。
ただ、あの後結局持ち帰った鳥だけが今も私のそばにいる。
どこに行くにも私の後を付いて来るのだ。まるで犬みたいな奴である。
空を飛びもせず犬の様にしっぽを振ったり、何より人懐っこい仕草がメロにそっくりなのである。
私はメロのいない寂しさを紛らわす為、その鳥にメロと名付けた。
しかし何日か経った後、ふとある考えが浮かんだ。
あの手品師が行ったのは手品などではなく、本当に触っただけで物や動物を全く別の姿に変える力を持っていたのではないかと。