「ハル!野郎、お前のせいだぞ!」
「なんだとデカブツ!お前が食い意地張ってるからだろーが!!」
甲板に上がってきてからも喧嘩は終わらず、取っ組み合いまで始まった二人だったが、それも鬼軍曹と恐れられる若山に「黙って働け!」と喝を入れられるまでの話だった。
ハルはふと手を止めて旧都東京の夜空を仰ぎ見た。
特殊兵器によって散々に破壊された東京の街の残骸は今、日本軍の格好の隠れ家になっている。この艦も今は残骸の中からレーダーだけをひょっこりと顔を出した状態で隠れている。
夜空は満天の星空だった。春の訪れが近いとはいえ、まだまだ寒く、雨が降るとすれば雪になるだろう三月の空も、今は雲一つない。雪‥‥そう言えばあの日は雪が降っていた。
白いダウンジャケットに、白い傘。笑顔の映えるショートカットのあの少女。UnhappyNewYearの夜、瓦礫の中から助けだされたのは自分だけだったという。
名前も何も聞かないうちに会えなくなってしまった。一言でいいからお礼を言いたい。一言‥‥
「よくね?寒くてかなわねえ」
野口がモップを絞りながら催促する。
「ああ」
と適当に返してハルもモップを絞り始めた。
バケツの水が冷たくて手に刺さるようだった。