ねぇ、可笑しいんだ。
あの頃のアタシは、アンタの笑い声が素敵って言ってたくせに。
泣き顔見たくないって言っては、たしなめてたくせに。アンタの泣いてた声がね、うつ向いた横顔がね、
今はすごく恋しいよ。
なんだか今日はね、部屋でね、独りでね、
灯りもつけてないし、時計の秒針がカチカチうるさい。
聴こえてる?雨の音。闇に消えそうなくらい静か。ねぇ、アンタが泣いてるみたいでしょ。
あの夜も雨が冷たかったね
アタシが見つけたときのアンタはびしょ濡れの野良猫みたいに震えてたんだ。
真っ白なワンピースにお気に入りの真っ赤なコート。
大きな空っぽのトランク抱えながら、
人気のない歩道に座りこんでた。
思い出した?
アンタはアタシを見上げて言ったのよ。
『行ってきます』
って言いながら、雨と一緒に泣いたのよ。