「嫌いよ。あんな乱暴な男子は嫌い」
「あら、だってみぃチャン、体育の時間ずっと荒井クンの事見てたじゃない!」
図星だった。顔が赤くなっているのが自分でも分かる。
「ほら!顔赤くなってる。荒井クンの事スキなんでしょ?」
かなチャンは、ずっと秘めてきた私の想いを見透している様に悪戯にニヤリと笑った。
だって、あの乱暴でいつもふざけていて、スカートめくりする様な荒井クンの事がスキなんてばれたら、クラス中、イヤ学年中の噂になるかもしれない。
「そんな訳ないじゃない。あんな子ホントに嫌いよ」
私はわざと少し不機嫌そうに言った。
「そう。なら良かった」
かなチャンは今度はホッとした様に笑った。私はかなチャンの言葉の意味が分らなかった。
放課後の誰もいない教室でかなチャンは声を潜めて言った。
「私ね、荒井クンの事スキなの」
顔を少し赤くしてかなチャンは窓の外を見た。私は胸が苦しくて息が出来なかった。奥の方がズキズキと痛んで、ただ目をパチクリさせていた。
「お前らまだ居たの?」
野球着姿の荒井クンが息を切らして教室に飛び込んできた。かなチャンは顔を真っ赤にして 下を向いた。
「わ、忘れ物?」とっさに私が言うと、荒井クンは「おう」と頷きながらロッカーからグローブを取り出した。そして「じゃあな」と手を上げて教室を出た。
「待って!!」
それまで下を向いていたかなチャンが真っ赤な顔を上げて言った。荒井クンは急に呼止められて驚いた顔をした。
「私ね、私、荒井クンがスキよ」
かなチャンの顔はトマトの様だった。荒井クンはポカンと口を開けて、私に視線を移した。私は荒井クンに少しの間見つめられて、また胸が苦しくなった。苦しくて苦しくて、スカートの裾をギュッと握った。静かな教室にただ野球部の練習の音が響いていた。荒井クンは黙ったまま走って行った。足音が消えた頃にかなチャンがヘナヘナと床に座った。私もヘナヘナと座った。
静かな教室にはただ野球部の練習の音が響いていた。