その扉が、二度と開くことはなかった。彼と私は、凍えるようなクリスマス・イヴの夜、また、あてもなく彷徨いだした。ふと気付くと、目の前に海が広がっていた。二人の思い出の海岸だ。
二人で遊んだ夏の海の面影は、微塵もない、北風の吹きすさぶ荒涼とした海だった。彼は、私の身体を温めようとして、いつもより何倍も強く、抱擁をしてくれるが、その寒さの中では、彼の身体からの熱も、すぐに溶けてなくなる淡雪のように、はかなく頼りないもののように感じられた。
波打ち際に捨てられた空き缶が、寄せては返す波のリズムにあわせて、 「カランコロン・・ カランコロン・・」と、まるでオルゴールのような美しい音色を奏でていた。極寒の海、彼の腕の中で、繰り返されるその美しい音色に、耳を傾けていると、私は、まるで夢の中にいるような気がしてきていた。
それは、暖かい日差しが降り注ぐ世界には、二度と戻れない、悲しい夢なのかもしれなかった。