603号室。ボロアパートの一室に、あたしたちは暮らしてる。
勝手にあたしが家出ようとして、親にブン殴られてもツバ吐き捨てて、走って走って走って……
あたしはココに来た。
お気に入りの服も置いて、卒アルも置いて、ケータイだけを持って‥‥ケンちゃんのトコに来たんだ。
歳は30で、あたしと14歳も差があるけど、優しくて、カッコイイ。あたしが心の底から惚れた人。
入江 ケンイチ。
あたしは何もかも捨てて、ココを選んだ。
―――ケンちゃんの隣を。
ドアを開ける。
タバコと、香水の匂い。
ソファで、寝息を立てるケンちゃん。
微笑むあたし。
「マキ、お帰り!」
「おッ、起きてたの!? ケンちゃん!」
「あぁ。マキを待ってたんだよ!」
って、抱き締められる。
《‥‥君がいれば、何にもいらないよ‥》心の中で呟く。
「ありがと‥‥でも、お仕事でしょっ?もうちょっとで。用意しないと駄目だよ〜っ。」
「あっ、そっか!じゃ、行って来るかなっ。」
革靴を履いて、笑顔でチューをする。
この瞬間、大好き。幸せって、本当に思う。
「じゃ、行って来ます!」「行ってらっしゃいっ♪気を付けてねー!」
階段を下りる姿を見送ってから、洗濯・洗い物・お掃除。
やることがいっぱいだけどコレもケンちゃんのため。
苦しく何か無い。
そして、お昼ご飯のお茶漬けを食べていたとき――。
ケンちゃんのケータイが、聞いたことの無い着信音で鳴った―――。