髪は淡いベージュ。
少しウェーブのかかったそれは3月の冷たい風になびいていた。
一目惚れだった。
大してかっこいい訳ではなかった。
けど、声が素敵。
眼差しが素敵。
三年間もいて気づかないなんて…
私は何も見ていなかったんだ…
私は友達の卒業記念カラオケを断って彼を追った。
彼は中庭の枝垂れ桜の下で草むしりをしていた。
花はもう無かったが、私はこの木が好きだ。
私は後ろから、コツコツとローファーをならしながら、近づいた。
こっそり行って彼が驚くといけないと思った。
「花、終わったんですね。」
彼は軍手の白い部分でひたいを拭って私を見た。
「…そうだね。」
無視されるかと思った…
「草むしり楽しいですか?」
「別に楽しいわけじゃないけど嫌いじゃないよ。」
少し笑って彼はいうのだ、心地よい、
そう思った。
「私は好きです。草むしり…なんか楽しいから。」
私は何気なさを装って隣に座り込んだ。
一番近くの草をつかみ、むしる。
雀がないて、風が吹いて、私のストレートの髪がなびく。
「卒業生?」
彼は隣に座った私に軍手を手渡しながらいった。
「本当は手伝ってもらっちゃだめなんだろうけど…あ、軍手使って…」
「ありがとうございます。でも、わたし軍手は使わないんです。触っていたい…変ですね。」
「そんなことないよ。俺も軍手はあんまり好きじゃないんだ、汗かくからね…」
「じゃあ、どうして軍手使ってるんですか?」
「寒いから…」
しばらくの無言の後、私たちは草で一杯のゴミ袋を見おろしていた。
「ありがとう。おかげでずいぶん早く終わった。」
「そんな…」
「あの…」
「何?」
袋の口を結びながら彼がいった。
「いえ……帰ります。さようなら。」
好きな人いますか…
聞けない…
バカ…
聞けないよ…
そのまま私は一度も振り返らずに走った。
嘘です。
三メートルほどでUターンをして彼の袖をつかんだ。
「好きな人いますか…」
聞いてしまった…
「え…」
困ってる…
困るよね…
いきなり知らない、たった一時間ほど一緒に草むしりした女が、
好きな人いますか…
ありえないよね…