ゆっくり
ゆっくりと
シワの間から涙が落ちた。
祖母は酸素マスクを外して欲しいと先生に言った。
マスクを外してもらうと、少し苦しそうだったけど、優しく笑った。
私はこんなに穏やかな祖母の顔を見た事がなかった…。
「少し疲れたから眠ろうかね」
祖母はかすれた声でそう言うとゆっくり目を閉じた。
それから祖母は目を覚ます事はなかった。
祖母は働き物だった。
祖母が寝ている姿を私は見た事がない。
朝は日の昇らないうちに起きて、夜も更けた頃に寝ていた。
私は店の手伝いをしながら
「ばぁば、どうしてそんなに働くの?」
と聞いた事があったけど、祖母は
「家に一人飯食い虫が来たからねぇ!」
とまともには答えてくれなかった。
店は決して繁盛している訳ではなく、細々と営んでいた。
今考えてみれば、祖母一人で私を養うのは大変な事だったろう。
けど、そんなの幼い私には分かるはずもなく、新しいノートが欲しかった私は祖母にしつこくねだった。
「まだ使えるだろ。そんな無駄な金は出さないよ」
祖母は買ってはくれなかった。みんな友達は買ってもらってるのに私だけ買ってもらえないと思うと、悔しくて泣いた。
「ばぁば、私の事嫌いなんだ!」
その夜、私は祖母にそう言って家を飛び出した。
少しして怖くなり、家へ帰ると祖母は何も無かった様に働いていた。
次の日、学校から帰るとちゃぶ台の上に新しいノートが置いてあった。私が欲しいキャラクターのノートではなかったけど、ピンク色のノートだった。
私は嬉しくて、祖母にばれない様に泣いた…。
〜四話へ続く〜