under bird ?

レガート  2008-01-30投稿
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「すみません、起こす方法を選んでいる暇がなかったもので」
「!」
言外に言いたいことを感じ取ったのか、彼ははっと渚を見た。
「何があった?」
その顔は、先ほどの寝ぼけ顔とは比較にならないほど真剣な表情をしている。
医者としての顔──
渚も事務口調で答えた。
「例の感染症にかかっている男性が発作を起こしました。薬を投与しましたから今は眠っていますが、なるべく早く看ていただきたいかと」
「わかった」
そう言うなり、彼は即座に立ち上がった。
「すぐ行く。道具を用意しておいてもらえるか?」
「はい」
渚は彼に背を向け、急ぎ足で来た廊下を戻った。

ここはアフリカのとある街の、地域で唯一の病院。日本のNPO団体によって建てられた、かなり大規模な病院だ。もちろん患者から金を吸い取ることはない。
そのため、日本などの先進国から来た医者や看護士が大勢勤務しているにもかかわらず、私達は毎日大忙しだった。徹夜など珍しくもない。

そんな過酷な地に私が来たのは、たった三ヶ月前。日本ではまだ、綺麗に桜が咲いていた頃──

「足をやられたのか……」
患者の男性の元についた水島は、そう呟いた。
「これは切除しないとダメだな……」
少しの間、彼は顔をしかめて考え込んでいた。だがやがて、よしっと小声で言うと立ち上がり、向かいにいた私に言った。
「草薙、オペの準備をしてくれ。右足を切除する。必要な用具は……」
そう話す彼の、口調も表情も真剣そのもので、二人で話すときとは全くと言っていいほど違う。もう三ヶ月経って、いい加減そういう表情も見慣れているはずなのに──
──やはり見入ってしまう。
「……と……って、おい!聞いてたか?」
用具を指折り数えていた水島が不審そうに渚を見た。
「は、はい!」
時間はわずか五秒程度だったが、それでも彼は気づいたらしい。
「先に行って準備します!」
「ああ、頼む」
そう言った彼は、相変わらず不審そうに顔をしかめていた。



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