【夢の続き】
悲運な怪我によって、騎手を引退した俺は、その後何年か厩務員として仕事をしていた。しかし、身体が回復し始めていた時、やはり『騎手として』再び競馬場に立ちたいという思いが強くなっていった。そんな時、思わぬことから、それを現実とするチャンスを掴むことになる。
俺の知り合いに、久遠(クドウ)という男がいた。彼は俺より少し歳が上だが、調教師として、地方競馬で馬を走らせていた。そんな彼から『騎手としてきてほしい』と依頼があったのだ。
こうして俺は、新たなステージを、地方競馬、船橋に移すことになったのである。
『よ〜、柚木。よく来てくれた、歓迎するよ。体調はどうだ?』
『ありがとう、だいぶよくなったよ。大きな後遺症が残らなかったのが、幸運だったんだな。これで俺も、夢を見続けることができる』
すると、久遠はニカッと笑った。この男、かなりの大柄だが、似合わない笑い方をする。
『夢の続き、か…。まぁ、もちろん甘くはないがね。地方だって、中央に負けないくらい、いや、それ以上か。ここで名乗りをあげるのも、なかなかなこったよ』
それは、久遠自身が身を持って感じている事実なんだろう。開業まもないとはいえ、なかなか結果をだせずにいる自分…。しかし、彼だからこそ、重圧の中で試行錯誤しながらも、精力的に活動しているんだろう。並の人間なら、焦燥感から自分を見失い、潰れていただろう。しかし彼は、少しずつだが着実に、力をつけていた。
『今度、重賞に挑戦させるのがいてさ、そいつの騎乗を依頼したいんだけど』