若き厩舎の努力の結晶。久遠が案内してくれた馬房に、その栗毛はいた。
『コイツが、今度南関東三冠の一冠目「羽田盃」に出走させようと思ってるうちの期待馬、「ハウル」だよ』
その輝いた馬体は、見とれてしまうほどだった。まだ子どもっぽさはあるが、しっかりした体つきで、さすがに期待馬、という印象だった。
『ねえ、跨がってみても?』
この馬で南関東三冠に挑戦か…と思うと、久々に血が騒いだ。だから、子どもみたいな興奮を久遠に悟られぬよう抑えながら、聞いたのだが。
『いいけど…はしゃぎすぎんなよ、調整プランが狂わない程度にしといてくれな』
…見抜かれていたか。
ともあれ、ハウルに初めて乗る機会を得た。人懐っこいらしいこの馬は、初対面の人間も静かに乗せてくれた。思った通り、乗り味がいい。しかしながら、この馬の背中、覚えがあるような気がしてならなかった。初めて乗った感じがしなかったのだ。
『コイツは…』
俺は何か懐かしい感じがして、不思議な感覚に陥っていた。
『感じるか?コイツはな…』
俺のとまどいを察したのか、久遠がその『理由』を話し始めた。
『お前が乗って天皇賞を勝った、モスキートミルクの初仔なんだよ』
『!?』
『背格好はたぶん父親譲りだろうからな、乗り味は、お前くらいしか確かめられないだろ』
そうか、それでか…。
なんだ、巡り会わせって、不思議で、面白いもんなんだな…。
俺はそんなことを考えながら、思い出の馬の仔の背で思いを馳せた。
こうして、俺とハウルは、勝負の一戦、羽田盃を迎えた。