休日の朝、久しぶりにかかってきた母からの電話は、トラの異変を知らせるものだった。驚いた私は、すぐに駆け付けた。
…そこには、痩せ細った体で苦しげに横たわるトラが居た。呼吸は荒く、目に力のない変わり果てた姿…。
……トラが死ぬ…?
私は、トラをすぐさま病院へ連れて行き、渋る母を説き伏せて入院させた。
…私は、鬼だったのかもしれない。
老衰による腎臓機能の低下に加え、夏バテと脱水症状が重なり、ここ3日が山場だと診断された。
人見知りが激しい彼女は、点滴の管を通され、檻に入れられた。
翌日、見舞いに行くとトラはヨロヨロと立ち上がり、かすかな声でニャ…と鳴いた。
山場と言われた3日を過ぎ、一週間が経ち、安心していた8日目…それは突然訪れた。
「…今朝、病院から連絡があって、朝来た時には…トラ…死んでたって…迎えに行ったから、最後のお別れしてやって…」
電話の向こうで、母は泣いていた。
硬く、冷たくなった彼女の遺体は、まるで眠っているようだった…。
それを見た瞬間、私は全身の力が抜け、涙が溢れてきた。
「ごめんね!ごめんね!」
彼女は、独りぼっちでこの世を去った。