件?
話は幸司達のアパートと前後するが…
焔蔵王丸は村神との会話の後帝都大学へ足を運んでいた。
村神の話に出ていた件(くだん)の死骸が帝都大学へ運ばれたと云うのである。
蔵王丸は帝都大学民族学教室の扉を開け、辺りを見回した。
暗く陰湿な空気が部屋中に広がり、壁中に掛けられた奇妙なオブジェがその異質さを存分に発揮している。
彼は床に積まれた本を器用に避け、部屋の中心のソファーのシートを外した。
「…久しぶりだね、由良くん…」
「やぁ…」
ソファーに寝そべっていたボサボサ頭の男が妖怪図鑑を片手に立ち上がった。
彼の名は由良和明。民族学の権威であり屈指の妖怪オタクと呼ばれている帝都大学一の変わり者である。
信じ難いことだが、蔵王丸と由良は大学の同期であり、親交が厚かったのだ。
「早速だけど見せて貰えるかな…」
「いいよけど…ちょっと言い忘れてたことがあったんだよね」
そう云うと由良は頭をガリガリと掻いた。
「何かあったのかい?」
「うん…もらってきた件なんだけど…アレ…まだ生きてるよ…まぁ僕としてはその方が嬉しいんだけど、さ」
蔵王丸は絶句した。
喉で言葉が痰をまいたように詰まり、次の言葉が出てこない。
「兎に角見に行こう…三階の実験室にまだ置いてあるから…」
幸司と竜助は砂羽を伴い、その噂のビルへ来ていた。中は殆ど荒れ果てており、人の気配など感じられない。
「本当にいんのかよ…」
「と言っても、もうお金貰ってますから」
竜助が幸司をたしなめるように云った。
辺りは一面闇が広がっており、足下も満足に見えない。一体入り口からどのくらい進んだのか、皆目検討もつかなかった。
ふと幸司が砂羽の顔を見ると、その瞳の色が変わっていた。
「竜助…くるぞ」
「えっ?」
その言葉と同時に前方の闇から足音が響いてきた。段々とそれは近づいてくる。そして闇にその輪郭が浮かんだ。
それを見た幸司は我が目を疑い、思わず呟いた。
「…天馬…?」