ここ数年で祖母の痴呆は進行し、その記憶は確実に蝕まれていった。
そんなある日、母と二人で祖母に会いに行った…。
「こんにちわ〜!おばぁちゃ〜ん♪来たよ〜♪」と玄関先で呼び掛けた私達に対して祖母は「…どちらさんですか〜?」と答えた。
…私はめげずに「順子さんと、せっこちゃんで〜す」と明るく言ってみた!
冗談であって欲しい…!
…だが、その願いは届かなかった。
祖母は首をかしげながら「そげんな人は知りまっせん!ごめんください…。」と答えた。
笑顔の消えた母。その深い悲しみは、私が推し量れるものではない…。
「まぁまぁまぁまぁ〜♪」沈黙を破って、私は母を引っ張り部屋の中へ誘導し、強引に上がり込んできた『知らない人』にも、祖母はお茶を入れてくれた。
…嬉しいけど、心配。
母も複雑な気分のようだ。
何事もなくいつも通りの会話は始まり、すぐに同じ話を繰り返す祖母に対して私達は色んな話題を振り、祖母はきちんと会話についてきた。
母の子供の頃の話を振った時、初めて「せっこちゃんは」という単語が聞けたが私の名前は最後まで呼ばれることはなかった…。