ホテルの一室…二人は向かい合っていた。
「お嬢様…」「佐野…」
「愛しています…」
佐野は愛美を抱きしめた。小さく震える愛美の肩を優しく抱きながら右手で愛美のあごを上げ愛美のくちびるに軽くキスをした。愛美の頬を一筋の涙で濡らしていた。「お嬢様…」「愛美と呼んで下さい」
「…愛美…」「…了…」
初めて二人は名を呼び合った。
そして佐野は愛美を抱き上げベットへ運んだ。
「愛美…今日はゆっくり眠って…私が側にいます」
そう言うと佐野はソファーに横になった。
「…了…一緒には寝ないの…?」
「私はここで構いません…」
「何故…?」
「私は旦那様への恩義を忘れておりません…愛美を愛して一生守ります。なおさら愛美を大切にしたいのです…」
「…了…」
愛美は安らかな眠りについた。
それをソファーから佐野は愛しそうに朝まで眺めていた。
明くる朝 秀二は静かで爽やかな朝日の中朝食を取っていた。
「兄さん…おはよう」
「ああ…おはよう祐太」
「兄さん…夕べは愛美さんと一緒だったの?」
「ああ…食事に行ったよ…」
「どうだった?愛美さんと上手くいったの?」
祐太は秀二が愛美を好きだと知っていて上手く行って欲しいと願っていた。
「そんな事言ってないで学校に行けよ…ピアノは順調かい?」
「ああ…大丈夫さ難波先輩のレッスンだしバッチリさ! ねえ兄さん!愛美さんをうちに招待してよね…僕応援するからさ…」
「分かった分かった…早く学校へ行け…」
秀二は愛美の話しはしたくない…諦めて愛美の力になると決めたのだから…
「きっとだよ〜?じゃあ行ってきます!」
「ああ…気をつけてな…」
そう言うと秀二はコーヒーを口に運んだ。
「おお…おはよう秀二…」父親の亮介が降りて来た。
「お父様…お話があります」
「なにかな…」
亮介は新聞を広げながら言った。
「愛美さんとの婚約は取りやめにしたいのです。」
「…何だって!?」
亮介は新聞を払い除け秀二を見た。
…つづく…