夕暮れの帰り道、母と二人で祖母の話をした。
「おばぁちゃん…最後まで私の名前を呼んでくれなかった…。誰かわからないまま話してたのかな…?」
母は、「誰かわからなくても、あれだけ話を合わせられるってスゴいと思う!」とだけ答えた。
「今日、会った事も忘れちゃうんだろうね…。」
私がポツリと呟くと、母はあっさりこう言った。
「帰った瞬間には、もう忘れちゃってるよ!誰かと話してた事どころか、誰かが来たことすら忘れちゃうんじゃない?」
仕方のない事だと笑う母はどこか寂しげだった…。
私は不安を振り切るように「…まぁ、いっか!今日の事!たとえおばぁちゃんが忘れても、二人が覚えてれば!それでいいんだよね!…それで十分♪」と、明るい笑顔で言った。
母は嬉しそうに私の頭をクシャッっと撫でた。
今のうちに、たくさんの話を聞いておこう…。大好きな大好きなおばぁちゃんの話を、何回でも聞いておこう。
…そして、覚えていよう。おばぁちゃんの笑顔、手のぬくもり…私が知っているおばぁちゃんの全部を。
おばぁちゃんの記憶から、完全に私が消えてしまっても、私は必ずまた会いに行こうと思う。