三日後、仕事の帰りに他の社員に見つからないように寺田を人気のない公園に呼び出した。
「何の用だ?」
「ふざけるんじゃねえ。陽子に手出しやがって。」
「はははっ。さすがに気付いてやがったか。相手がお前じゃ陽子も退屈してたんじゃないか?だから俺が遊んでやったんだよ」
佐山は自分の血管が切れる音が聞こえたような気がした。何より陽子と呼び捨てられたことが無性に腹が立った。もう我慢できず懐に隠してある包丁に手をやった。
「てめえ、人のこと言えるのか?お前だって同じことをやってるだろ」
寺田の言葉を聞かず佐山は包丁を取りだし突っ込んだ。しかし寺田はその手を受け止め、取っ組み合いになった。
「くそ、何しやがる。自分のやってること分かってるのか」
「うるせえ。陽子に手を出したお前が悪いんだ。手離しやがれ」
「馬鹿かお前。離すわけないだろ」
寺田はそう言った後佐山の腹に膝蹴りした。
「ぐはっ」
佐山は包丁を落とし、腹を押さえ跪いた。
寺田は包丁を拾い上げ、佐山の心臓めがけ突き刺した。佐山はぐったり倒れこんだがまだ息はあるようだ。「弘美」呟いたのは愛人の名前だった。このことは自分を呆れさせた。だったら陽子のためにこんなことするんじゃなかった。
「最後に教えてやる。お前にも陽子以外に女が一人いるだろう?」
寺田が言った。
佐山は反撃する力がなく、逝く覚悟を決め、頷いた。「あれは俺の妻だ」
佐山は驚き、目を見開いた。そして死ぬ間際に思い付いた女が寺田の女だったということでさらに自分を呆れさせた。
そしてふと考えた。これから寺田はどうするのだろうか。逃げるのか。いやそれはない。では警察を呼び事情を話すのだろうか。
佐山は寺田が警察に話す内容を考えた。
当然いきなり襲いかかってきて仕方なく刺したと言うのだろう。
佐山は「ふっ」と笑い、 「俺の計画と同じじゃないか」そう心の中で呟いた。