その光景を眺めながら、ケンヤは心でつぶやいた。
(こうして見ると不思議なものだな)
体操着姿の生徒達は思い思いに体をほぐし、友達同士はしゃいだりふざけあったりしている。
ありふれたいつもの光景―\r
そこにはイジメや暴力の影はない。
実際梅城ケンヤの施策のお陰で、第三中学校からはイジメはほぼなくなり、不登校生徒も365名から22名にまで激減した。
そのためもあって、確かに今中庭にいる生徒達は、心配や危険から解放された屈託のない笑顔を見せている。
だが―\r
(それでもイジメはなくならない)
ケンヤは窓の下枠に乗せた手を握りしめた。
それに―\r
(こいつらだって結局は《力》に従ってるだけさ―処刑が恐いからイジメをしない、したくても出来ない)
そうだ―\r
イジメはイジメグループがいるから発生する訳じゃない。
イジメを傍観し・利用し・それに従属し
やがてはその構造に依存し楽しみすらする多数者がいる限りイジメはなくならない―\r
害虫がわきだすのは水が汚いからだ。
水が汚いから多くの魚が害虫にやられて死んでゆく―\r
(だからこそ俺はやる)
梅城ケンヤは中庭の生徒達に向けて鋭い視線を落とした。
(無関係を装ってんじゃねえよ共犯者どもが)
その唇は閉じられたまま、不気味に歪み出した。
(汚い水の分際でいかにも模範生演じてるんじゃねえよ虫酸が走るんだよ)
ケンヤの憎しみは変わってはいなかった。
もうじき戦争が始まる。
少なくともその一方の主役は改革派だ。
そして、大勢の生徒が死ぬ。
今楽しそうに体育の用意をしているあいつらも死ぬ。
だがそれがどうしたと言うんだ?
(イジメは困る・不正だ・止めろとほざきながらそれに加担して自殺者を産み出して来た奴ら―だから俺を会長に選出し、イジメをなくさせようとしたんだよな?)
確かにイジメはなくなった。
だがイジメで死んだ生徒は帰って来ない。
ナツも帰って来ない―\r
そして、イジメがなくなったと喜んでいる連中から、死んだ生徒を悔む言葉なんか出てきた例しがない。
(ところが残念―イジメを根絶するためにはお前達の血も必要なんだよ。都合が悪いからってじたばたすんなよな)
ケンヤはいまいまし気にカーテンを閉めた。
《処刑生徒会長第四話・終》