島津 昭弘 (68才)どうやら、自分の余命は、もうほとんどないみたいだ。
思えば、自分の人生は淋しく愛のないものだった…仕事一筋、結婚もしないまま、ただがむしゃらに生きた。
「愛」なんて言葉とは、全く無縁…自分が死期が近いこの時まで、誰も見舞いに来ない…おそらく誰も悲しんでくれんのだろう…そして誰にも知られる事なく…これは多分、自分の生き方への罰なのかもな…
この冷たい病院の窓から見える私の好きな桜が1番の楽しみだ。来年の桜は、もう見えないけど…せめて、桜を目に焼き付けて死んでいけるように毎日桜を眺めている。
ある日の夜、ふと目を覚ますと自分の横に人影が見える。「誰だ」と言おうとしたが、弱りきった身体は、もう声も出ない。するとその人影は、自分の心に話かけてくる。
(突然すいません、私は死神です。声も出さなくて結構ですよ、心の中でお話しましょう。)
死神??
あぁ迎えが来たのか…なんだか、死神のイメージとは、全然違う。スーツ姿だし普通の青年にも見える。
「まぁなんだって構わない…早くあちらの世界へ連れて行ってくれ」
(今日は、迎えに来たのではないんです。あなたの寿命は、約後二日あります。実は、あなたにお願いがありまして…)
「なんだ?」
(実は、今むこうの世界では、人口が増え過ぎて困っているのです。本来でしたら順番で生まれ変わりって形で、この世界に戻って頂くのですが、ここ最近この世界に戻って行くを嫌がる人が沢山いるんです。そこで、あなたには、すぐに生まれ変わって頂きたいのです。通常でしたら、三百年以上はかかるのですが…)
「そうか…誰もこんな世界には、生まれてきたくないと言うことか…」
(どうでしょうか?)「次の人生は、愛豊かなものになるだろうか?」
(それはわかりません。約束もできません。そして強制でもありません。)
「いいよ。期待しながら、またこっちの世界で生きてみるよ」
二日後、島津昭弘の人生は、終わった…
そして新しい人生が始まる。今生まれようとしている。母親の体内から外の世界へ…
その瞬間、桜が見えた…そして母親との対面。
???
母親は、犬だった。
もちろん自分の姿も犬だった…なんて事だ…生まれ変わりが犬だったとは…