平田はなにがなんだか分からなかった。
いきなり立ち上がった友人の下腹部から、長い鈍色の刃物が突き出たからだ。 なんの前触れもなく、いきなりすっと飛び出た刃物。言葉なく、平田はゆかりを呆然と見つめていた。
「あぁ、外してしまった」至極残念そうな声がした。年輪のみえる、男の声。 ずるりと頭身が引き抜かれゆかりが倒れた。
倒れたゆかりの背後から、「…まえ、ばし…?」
前橋が、眉根を寄せながらゆかりを見下ろしていた。「急に立ち上がっちゃうから外してしまったよ」
「…ぅ…………ぁ………」ゆかり。
汚い、資料が雑然と散らばった床にゆかりは血塗れで倒れていた。
「…君も、死んではくれまいか?」
前橋が、刀の血を振り払う「な…に」
がたがたと震えて声が震える。
「だって、見ちゃったんだろう?私が『勘助』を刺したのをさ」
「見ていない」
がちがちと歯が鳴る。
恐怖で目の前がちかちかして、呼吸がせわしない。 椅子から落ちるように、這うように壁ぎわに逃げる。前橋がゆかりの身体をまたぎながら平田を追い詰める「駄目。だって君も、僕の『敵』だもの」